水の領域

瑞木理央(みずき・りお)の短歌と詩

2015年頃の短歌

 

詩をくれた君に常套句(クリシェ)を返すしかできないことが悔しくて今

 

風に薫る言葉を摘んで花束にして君に捧げる愛の歌

 

   *     *     *

 

風の筆が雲の模様を描き出す空のキャンバスどこまでも青

 

   *     *     *

 

 ネット炎上。

正しさを求め続ける蟲たちが集う電脳異端審問

 

オクターブ声を落として話したい 正義について語るときには

 

   *     *     *

 

溜め息がきこえる距離でそれぞれの宇宙に繋がる液晶の窓

 

   *     *     *

 

滾る血を星の冷気で包みこみ戦いに発つ冬のオリオン

 

近づいては離れ決して交わらないふたり二重連星のシリウス

 

   *     *     *

 

真っ白なお皿の上に絡まった思考を一つまた一つ置く

 

強力な磁石が支配する都市は避難所(アジール)なしでは息もできない

 

高周波の恋をしていた恍惚と絶望が弧を描いて墜ちる

 

君がくれた言葉にひそむ柔らかな棘の痛みを決して忘れない

 

冬の陽の光が斬りつけた傷をぬばたまの夜はやさしく包む

 

群青(インディゴ)の夜に降る雨 遠くから星と赦しの歌がきこえる

 

青く固い壁の向こうに君はいた 君を通して世界が視えた

 

みぎひだり、上と下とに分かたれた地球はもっと丸くなるべき

 

昨日まで君が座っていた場所に残る爪痕 星のない空

 

粉雪は祝福のしるし ぼくたちが進む未来を照らしてくれる

 

さよならの言葉は空に 君からの手紙は星のポストに還す

 

   *     *     *

 

ひたすら生春巻を包む 雨に散る花は一度も見なかった春

 

ブレーキをかけて路傍のたんぽぽが送る周波に耳を合わせて

 

近ごろは極彩色の夢ばかり見ているせいか日はモノクローム

 

ウイルスに微量の狂気混入中パンデミックは赫いカーニヴァル

 

遠ざかるほど鮮やかによみがえる記憶の種を愛と呼びたい

 

 

☆参照: http://newmoon555.jugem.jp/?eid=467

 

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