水の領域

瑞木理央(みずき・りお)の短歌と詩

【短歌】Schizophrenic Visions

 

(怒ってる)郵便ポストの顔色がシグナルレッドに変化した朝

 

エンジンの音が私を責めているようで歩道をあるけなかった

 

昨日までなかったはずの歩道橋、建設過程を誰も見ていない

 

深海魚から受け継いだ遺伝子が私の意図を支配している

 

    *    *    *


サイレンが近づいてくる私だけに通告された滅びのシグナル

 

洪水が来るとか私に言われても箱舟ひとつ造れないのに

 

     *    *    *


人類のすべてが狂いだしていま私一人の正気が凍る

 

鳥も私の味方じゃなくて息継ぎのために電車で揺れる一日

 

     *    *    *


盛(さか)る火にもし魂があるのなら私の脳に棲んでるのいま

 

眠らせてほしい神様もう二度とあなたを飛び越えたりしないから

 

     *    *    *


日本語があらゆる場所で毒となり矢となり私を消すしかなくて

 

無名人なのに組織に監視され心の中まで透視されてる

 

頭上たかく横切る赤い飛行機が私の思想を持ち去っていく

 

     *    *    *


知らぬ間に境界線を踏み越えた咎で天使に責められてます

 

たくさんの見えない小さなともだちに触覚経由で合図をされる

 

空と雲、だけがいつもとおんなじで何も言わない優しさが在る、と

 

いまここの世界を実在させるため戦っている君に拍手を


     *    *    *

 


統合失調症発症時の体験を、短歌で表現したものです。
2016年にTwitterで発表したものに、少し手を加えて再録しました。
ここで再公開するか迷ったのですが、発表当時、同病経験者の方から「素晴らしく病気を的確に表現されて〜」との評価をいただいたので、残すことにしました。

同じような状況にいて苦しんでいる方々へ。どうか少しでも安心できる環境で、生き抜いていけますように。

 

[追記]
別ブログに、これらの短歌について、少し解説を書いてます。
http://newmoon555.jugem.jp/?eid=569

 

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