水の領域

瑞木理央(みずき・りお)の短歌と詩

【連作短歌】地下劇場の王国より

 

パペットの糸切れたあとその瞳(め)にはひかりが宿る やがて開幕

 

観客がわたし独りの劇場に轟きわたるオラクルの蒼

 

道化師がバビブベぼくの鼻先で告げる世界をはみだす呪文

 

真実は劇薬だからすこしだけ朝のスープにそそいであげる

 

錆びついたメロディーよりも熱い嘘 過激なほうを取り分けるから

 

托卵の歌とき放て明日にはきっとわたしがあなたを超える

 

硝子戸の前に立っても開かない自動ドアではない板硝子

 

何処へでも行けるIC乗車券かざして月の改札口へ

 

何周も同じ楕円をめぐりつつ なのに降りられないわたしたち

 

狂乱の一歩うしろを追いかける消炭色の沈鬱いまは

 

名づけられなかった星の血汐もて歌は夜空の黒板に画け

 

Gloria あなたの涯(はて)に降る雪を穢すわれらに幸いあれ、と

 

 

 

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