水の領域

瑞木理央(みずき・りお)の短歌と詩

【短歌】月に寄せて

 

目を閉じて息を澄ましてこの夜と一つになってゆく闇の肌

 

メランコリアの月はお菓子を食べ過ぎてほろんほろんと降る粉砂糖

 

魔女の肌色の今夜の月だからケチャップまみれにするオムライス

 

銀の屑しゅらしゅら砕け降る夜の銀の欠片でみずうみを買う

 

木枯らしが月の鏡を磨くからぼくら仄かに光っているね

 

棄てられたピアノが(りるら)唄いだす月のひかりが流れ着く岸

 

太陽の光を月は吸いこんで吐きだす息がメロディになる

 

素裸でふるえる月のたましいは両性具有(アンドロギュノス) とおい瘢痕

 

青空にぽつんと白い月が待つわたしのためのわたしの時間

 

クレセント・ムーン誰もが待ち望むひかりの日々をぼくは貰った

 

月はいつか割れてしまうね。ぼくたちが夢を詰め込みすぎたばかりに

 

地上にはあともう少し居るつもり月がわたしを追い越してゆく

 

月の模様のタッチパネルにゆびを置き分岐していく藍の宇宙へ

 

月に向かっておおきく伸びをする 死者の最期の声を届けるように

 

 

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