水の領域

瑞木理央(みずき・りお)の短歌と詩

【短歌】二重春時間

透明な糸をつたって曲技団(サーカス)の夜から夜へとわたる白蜘蛛 風を呼ぶ桜の声は重低音バッドニュースは遅れて届く 早春の傷癒えぬまま息を継ぐタンポポの孤独デイジーの罠 淡色のかなしみ手ざわりもあわく夕光(ゆうかげ)に溶けのこるシロフォン いっ…

【連作短歌】惑星システム21

ゆびさきで触れた位置からじりじりと歪みはじめる世界の喘ぎ 奇跡から放り出されて着地した砂浜のすな すこしつめたい どんな夢も打ち切りにあうそのときのために集めた銀貨をつかう この惑星(ほし)の軌道がゆらりずれてゆく出逢い損ねた二人のために たま…

【連作短歌】月のマイルストーン

穢された月の記憶がよぎる空、あなたの嘘を曝くさきぶれ 語れない罪を負うひと月の夜はつきのひかりにさえ怯えつつ なまぬるい外気に触れて ささくれた言葉にバンドエイドを巻いて ただひとりの闘いひとつ終えるたび拡がってゆくかなしみの染み 弱くあること…

【連作短歌】神の箱庭

好きだった歌のたそがれ音符ごと黒板消しで消したい夏だ 敵意よりやさしく嫉妬よりぬるいトマトはすこし熟れすぎている 駆けのぼるほど腐ってゆく人間もかつて信じた夢の果実も 売文屋、かなりや殺しの罪隠し吹けば飛ぶよな言の葉の檻 生き延びろ。闇に愛さ…

【連作短歌】cyberspace 2017→2016

甘やかなサイバーテロの標的になったVOCALOID(ボカロ)を巡る文字列 私の内部のある種の回路がすり減ってゆく剥き出しの視線の下で 「悪の側(がわ)に立つ」ときこえた電磁波にまぎれて声はすこし掠れて 天上の窓から文字が降りそそぎ それがぼく…

【連作短歌】交換/交感/交歓

液晶の窓をひらいてこの国にひしめく鳥の囀りをきく 現実(リアル)では出逢えなかった君や君と不意につながる文字列(テクスト)の波 暗号を解く鍵もまた暗号で送るしかなくて捩(もじ)れる文字が チューナーを君の周波に合わせたら ぼくはいま変声期のV…

【連作短歌】時間製造工場

いつの間にやらつぶれた店の跡地にはどこもかしこもセブンイレブン この国の時間を赤く塗りつぶす工場としてコンビニは建つ コンビニの本体よりも駐車場がだだっぴろくて暮れる郊外 クレジットカードを持たぬ大都市の貧者のためにFamiポートあり レジの…

【連作短歌】 チョコレート大博覧会

※チョコレートを愛するすべての女性に贈ります。 ショコラトリーひしめく二月の博覧会 人、人、人の瞳(め)は弾んでる 折れそうな自分のためにチョコを買うおんなのひとはみんなかわいい いきたくてたどりつけない迷宮の壁の向こうのラ・メゾン・デュ・ショ…

【連作短歌】 働くことは尊い

労働と称するしずかな戦争に破れて散ったあの子も私も 息をするだけでお金が減っていく家賃年金健康保険 病院で支払う医療費分さえも稼ぐ力がなくて死にたい 生命力ゼロの私が働けば経済効果はさらにマイナス 社会とは働く人のものである——私に社会は存在し…

【連作短歌】 星の時間を生きる

金のペン銀のペンから星が降る何もない日をきらきらにする 逆走の水星(マーキュリー)おどけた声で古い手紙を曝きはじめる 宝石のような時間を終えてやや恥ずかしそうに宵の金星(ヴィーナス) 眼に映るすべてのものを焼き尽くす前の乾いた胸に火星(マルス…

【連作短歌】Wonderful Vegetables

嫌われてお皿の隅に残されたピーマンだけを愛したい夏 剥きすぎたレタスの山と戦えず卵とともに駆け出した朝 鮮やかな南瓜よ馬車になるよりもプリンになれよ私のために 午前9時にんじんジュースに飛び込んで溺れた蠅を弔う鐘だ カイワレが野菜売り場から消…

【連作短歌】蟹と闘う

繰り延べた死を思い出す前夜祭 診察券は財布に入れる いつもとは違う路線の地下鉄に乗る乗り換えるここが戦場 本日の受付番号、平安京遷都と1番違いで惜しい フルネーム何度も問われ何度でも答える喉がやや縺れつつ 皮膚を破り侵入者として血液を奪う針から…

【短歌】recurrence of cancer 2016

死神の消息を聞くたびにこの世界は色を鮮やかにする * * * 死神がご機嫌いかがと軽やかに尋ねてわらう初夏真昼(はつなつまひる) 他界からの風の便りになつかしい空のにおいがよみがえる午後 生まれくる前の場所へと還る旅 ひと息ごとに花が零れる 去り…

2016年後半の短歌

宿題を残したままで夏暮れて霧の向こうにあるはずの湖(うみ) 懐かしい玩具(おもちゃ)の声に微睡んで退化してゆくぼくらに繭を 古代都市遺跡にあそぶ縞猫の尾にきざまれた裏クロニクル * * * 秋三首。 運命は低いところが好きだから転がってゆくドング…

【短歌】小さな手紙 2

すずやかな銀杏並木が黄水晶(シトリン)のしずくを散らすあきかぜの道 Twitterで交流のあった、あきかぜさんに。 * * * ◯人名折句 水に舞う瑞鳥の羽(はね)はろばろと来世を照らせ紫苑いろの灯(ひ)よ 背中には翔べないままの泣きそうな翼があった こ…

2016年前半の短歌

Twitterとは。 挨拶も交わさず星を贈り合うのが今日のコミュニケーション つぶやきが君のアンテナ掠ったら黙って星を光らせなさい ソーシャルな愛を安売りしたくないぼくらに星を返してほしい 液晶の窓に浮かんだ文字だけの弱い絆がぼくらのすべて * * * …

2015年頃の短歌

詩をくれた君に常套句(クリシェ)を返すしかできないことが悔しくて今 風に薫る言葉を摘んで花束にして君に捧げる愛の歌 * * * 風の筆が雲の模様を描き出す空のキャンバスどこまでも青 * * * ネット炎上。 正しさを求め続ける蟲たちが集う電脳異端審…

2014年の短歌

赤銅(あかがね)の月に追われて異界への扉をひらく蝕(エクリプス)の夜 深淵を覗いた罪で深淵に呑み込まれてゆく 私は宇宙 樹のみどり草の緑にみずうみの碧をあつめてすべてを青に 海色の街を漂う 透明な水母(くらげ)みたいに傘をひろげて 乙女回路を持…

【短歌】「かばん」4月号

追憶の傷に触れる書ノンブルが光になって弾けて消える 貫いた狂気の果ての残り火を光の消えた廃墟に灯す 溜め息がきこえる距離でそれぞれの宇宙に繋がる液晶の窓 暗号のような手紙を空に撃つあなたの指は近くて遠い 帽子から次々跳び出す鳩や花、リボンのよ…

【短歌】小さな手紙

「小さな手紙」 桜餅の葉にふくまれた塩分が朝(あした)わたしの涙にかわる ノラ猫に生まれかわって来世では煮干しが泳ぐ海辺で暮らそう 薄闇の底に光はしらしらとあなたの石を照らしはじめる 家じゅうを探しまわって見つからず開けた窓から来る青い鳥 冬の…

はじめに

都樹野(つきの)ひかり→瑞木理央(みずき・りお)とペンネームを変えました。 「月ノヒカリ」というHNで、2009年から「身近な一歩が社会を変える♪」というブログを運営してきました。より個人的なプロフィールはそちらで。 2014年秋頃から、短歌を作ってTwi…