水の領域

瑞木理央(みずき・りお)の短歌置き場です。

【連作短歌】Wonderful Vegetables

 

嫌われてお皿の隅に残されたピーマンだけを愛したい夏

 

剥きすぎたレタスの山と戦えず卵とともに駆け出した朝

 

鮮やかな南瓜よ馬車になるよりもプリンになれよ私のために

 

午前九時にんじんジュースに飛び込んで溺れた蠅を弔う鐘だ

 

カイワレが野菜売り場から消えた日をおぼえていますか・昭和生まれよ

 

花だってきっと可愛いはずなのに蕾のままで眠るブロッコリー

 

煮るだけで翡翠(ひすい)に変身する君はもはや奇跡だグリーンピース

 

もぎたての曲がった胡瓜はメロンよりjuicyでぼくは野性に還る

 

血より濃い彩(いろ)のトマトにかぶりつくベジタリアンの老ヴァンパイア

 

ニンニクを丸かじりして頭骨を火蜥蜴(サラマンダー)の尾が跳ねまわる

 

 

◎自作解説: http://newmoon555.jugem.jp/?eid=555

 

note.mu

【連作短歌】蟹と闘う

 

繰り延べた死を思い出す前夜祭 診察券は財布に入れる

 

いつもとは違う路線の地下鉄に乗る乗り換えるここが戦場

 

本日の受付番号、平安京遷都と1番違いで惜しい

 

フルネーム何度も問われ何度でも答える喉がやや縺れつつ

 

皮膚を破り侵入者として血液を奪う針から目を逸らしてる

 

やわらかなからだに傷をもつ人が固まりながら待つ白い部屋

 

ペパーミントグリーンの声で話す医師はわたしの不安を食いとめる役

 

「問題はないです」なんて異常値の腫瘍マーカー見せて主治医は

 

注射器が小さな戦士を送り込む 蟹に侵され傷んだ骨に

 

病院の午後のひかりは淡くなるゆるやかになる 少しだけ眠い

 

◎初出: http://newmoon555.jugem.jp/?eid=522

 

 

note.mu

【短歌】recurrence of cancer 2016

 

死神の消息を聞くたびにこの世界は色を鮮やかにする

 

   *     *     *

 

死神がご機嫌いかがと軽やかに尋ねてわらう初夏真昼(はつなつまひる

 

他界からの風の便りになつかしい空のにおいがよみがえる午後

 

生まれくる前の場所へと還る旅 ひと息ごとに花が零れる

 

去り逝くと知ればすべてがいとおしい 傷痕さえも煌き果てる

 

重すぎる荷物をひとつ捨てたあとの空漠をただ抱きしめている

 

   *     *     *

 

脊椎がここにいるよと自己主張するように痛む長い長い夜

 

体芯を貫く光の道をもつ脊椎動物なんだ私は

 

走れないからだを生きて黄昏に追い越されたら火星になろう

 

   *     *     *

 

私から光も風も過ぎ去ってdepressionが支配する夏

 

致死量の悪意を解毒しきれずに悲鳴をあげた肝臓異変

 

ひんやりと白い機械のトンネルを出るたびに流れる時の砂

 

亡骸となりゆく日々を直射する生の証としての痛みは

 

ロキソニンだけでは消えない痛みのみ生の証として認めます

 

長生きも早死にするも親不孝だから間をとって早生き

 

通行人Aを襲った悲劇より静穏な死を迎える準備

 

一歩ごと見えないドアに開かれる終りへの道果てしなくひとり

 

いつか君も齢(とし)を重ねてたどり着く道にしおりを残していくね。

 

   *     *     *

 

ありふれた病でたぶん逝くからだにはありふれた午後の紅茶

 

   *     *     *

 

幾千の叶わなかった夢の実がさざめきながら僕に降る夜

 

   *     *     *

 

ほら、悪性新生物と呼べば癌もやんちゃな未知の小動物だ

 

転移した癌をチャルルと名づけたら一緒に生きていける気がした

 

 

☆参照: http://newmoon555.jugem.jp/?eid=516

再発した癌とともに生きてます。

 

 

note.mu

2016年後半につくった短歌

 

宿題を残したままで夏暮れて霧の向こうにあるはずの湖(うみ)

 

懐かしい玩具(おもちゃ)の声に微睡んで退化してゆくぼくらに繭を

 

古代都市遺跡にあそぶ縞猫の尾にきざまれた裏クロニクル

 

   *     *     *

 

 秋三首。

運命は低いところが好きだから転がってゆくドングリの群れ

 

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しんしんと直視できない日輪を水は宿して死の際(きわ)に沿う

 

 

 

ゆわゆわわ水面に揺れる落ち葉より自由なものがこの先にある

 

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   *     *     *

 

 2016年10月、名古屋市内の繁華街にて、革マル派デモに遭遇。

 

ゲバ棒をふるう人なき平成に何を守るか白ヘルデモ隊

 

メタリックブラックの街宣車からやけに滑舌のいい罵声を浴びて

 

異端的政治活動いつまでも闘えトムとジェリーのように

 

   *     *     *

 

 パレーシア。権力を握る者に、勇気をもって真理を述べること。時に命がけで。


青き死を懼れぬ者に託された闇がひかりを刺すパレーシア

 

   *     *     *

 

怒りの日(ディエス・イレ) 天上界の非論理に焼き尽くされたあとの祈りは

 

   *     *     *

 

 チョコレートの誘惑。


論理よりレトリックより馨しいチョコレートには宇宙(コスモス)がある

 

純粋なカカオはひとを狂わせる次に虜囚となるのはあなた

 

カカオより歌を信じているのなら苦くて甘い音で応えて

 

※作中主体はチョコレートです。

   *     *     *

 

言の葉の飛び交う庭に招かれて私の辞書も攪拌(かくはん)される

 

ヘリウムを吐き出すように笑ってる群れからすこし離れてねむる

 

またねって手を振ったきり君はもう夏を振り向くことさえなくて

 

 

 

note.mu

【短歌】小さな手紙 2

 

すずやかな銀杏並木が黄水晶(シトリン)のしずくを散らすあきかぜの道

 

 Twitterで交流のあった、あきかぜさんに。

 

   *     *     *

 

◯人名折句

水に舞う瑞鳥の羽(はね)はろばろと来世を照らせ紫苑いろの灯(ひ)よ

 

背中には翔べないままの泣きそうな翼があった ここだけの呪詛

 

☆参照: http://newmoon555.jugem.jp/?eid=536

 

 

tsukinohikari.hatenablog.com

 

 

 

2016年前半につくった短歌

 Twitterとは。

挨拶も交わさず星を贈り合うのが今日のコミュニケーション

 

つぶやきが君のアンテナ掠ったら黙って星を光らせなさい

 

ソーシャルな愛を安売りしたくないぼくらに星を返してほしい

 

液晶の窓に浮かんだ文字だけの弱い絆がぼくらのすべて

 

   *     *     *

 

 飲み会ぼっち。

饒舌な酔いどれ人に囲まれてぬるむ刺身を噛み締めた夜

 

   *     *     *

 

 地球照の夜。

三日月の欠けた部分を照らしてる地球の光のぼくらは一部

 

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   *     *     *

 

目が覚めた後に出かけるあてもなく ぼくの前には空だけがある

 

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 絶望生成過程。

化学室観察日誌普遍的絶望生成過程報告

 

たましいがしずかに凍りついたあとゆるりと融けて絶望となる

 

   *     *     *

 

 観察され短歌。

この夏はあの子の庭の朝顔になって観察されていました

 

ぼくよりもきみの方こそアルマジロ珍獣決定戦で勝負だ

 

   *     *     *

 

 夢三首。

夏の夜の夢と夢とが混線し溶けあって壮大な宇宙史に

 

受信する夢と夢とのあわいには地球のための小さな祈りを

 

夢を見ている夢をみている夢を見ている夢をみている私

 

   *     *     *

 

帰るべき巣をつくれない僕たちに夜のひかりはいつもやさしい

 

ミネルヴァの梟は飛ぶ息絶えた坑道のカナリアの墓標へ

 

この森にさざめく声をかき寄せて祈りにかえる八月の魔女

 

楽園を追われたけれど知恵の実を齧ったことは悔いたりしない

 

ケルトン自動車走る透明な生き物が棲む島をめざして

 

蒼天を駆ける空色飛行機は世界を青に導くだろう

 

メロディになりそこなった雨音を拾いあつめて降るラグタイム

 

悪役になりきれなくてきらきらと緋色の羽根を振り撒くぼくら

 

(走れない)地球の重力1Gが1.5Gになる月曜日

 

ト短調の吐息と寝息だけ乗せて終バスはゆく夜の向こうへ

 

ピアニシモの吐息でしゃぼん玉を吹くようにやさしい沈黙(しじま)がめぐる

 

帽子から次々跳び出す鳩や花、リボンのように語りあいたい

 

お喋りな君の指から蝶々が舞い降りてきてこの指とまれ

 

歩いても歩いても家に帰れない夢から醒めたあとの秒針

 

人の世の蜜に焦がれた咎ゆえにこの地に生きるわれら流刑囚

 

空想の裡(うち)に重ねた罪を知りつつ裁かない天日(てんじつ)の眼は

 

バーゲンセールにされた世界を生きている魂さえも稀釈しながら

 

倫理学教師が夜ごと訪れて花を散らしてゆく裏通り

 

降りそそぐ龍の涙を掌(て)に受けて沁みゆく爬虫類のにおいに

 

火星発アラームも犬の呼び声も巻き込んで夏蟲交響曲(なつむしシンフォニー)

 

アンドロイドの踊り子たちは偽りの楽土の夢を舞いながら散る

 

蟲や樹の御魂がヒトに輪廻する秘史を忘れて虐殺の庭

 

冥闇(くらやみ)の淵に彫られた傷痕が花になる日を待ち焦がれてる

 

木洩れ陽も猫も私も生塵もすべて一つになるeuphoria

 

 

☆参照: http://newmoon555.jugem.jp/?eid=514

 

note.mu

2015年頃につくった短歌

 

詩をくれた君に常套句(クリシェ)を返すしかできないことが悔しくて今

 

風に薫る言葉を摘んで花束にして君に捧げる愛の歌

 

   *     *     *

 

風の筆が雲の模様を描き出す空のキャンバスどこまでも青

 

   *     *     *

 

 ネット炎上。

正しさを求め続ける蟲たちが集う電脳異端審問

 

オクターブ声を落として話したい 正義について語るときには

 

   *     *     *

 

溜め息がきこえる距離でそれぞれの宇宙に繋がる液晶の窓

 

   *     *     *

 

滾る血を星の冷気で包みこみ戦いに発つ冬のオリオン

 

近づいては離れ決して交わらないふたり二重連星のシリウス

 

   *     *     *

 

真っ白なお皿の上に絡まった思考を一つまた一つ置く

 

強力な磁石が支配する都市は避難所(アジール)なしでは息もできない

 

高周波の恋をしていた 恍惚と絶望が弧を描いて墜ちる

 

君がくれた言葉にひそむ柔らかな棘の痛みを決して忘れない

 

冬の陽の光が斬りつけた傷をぬばたまの夜はやさしく包む

 

群青(インディゴ)の夜に降る雨 遠くから星と赦しの歌がきこえる

 

青く固い壁の向こうに君はいた 君を通して世界が視えた

 

みぎひだり、上と下とに分かたれた地球はもっと丸くなるべき

 

昨日まで君が座っていた場所に残る爪痕 星のない空

 

粉雪は祝福のしるし ぼくたちが進む未来を照らしてくれる

 

さよならの言葉は空に 君からの手紙は星のポストに還す

 

   *     *     *

 

ひたすら生春巻を包む 雨に散る花は一度も見なかった春

 

ブレーキをかけて路傍のたんぽぽが送る周波に耳を合わせて

 

近ごろは極彩色の夢ばかり見ているせいか日はモノクローム

 

ウイルスに微量の狂気混入中パンデミックは赫いカーニヴァル

 

遠ざかるほど鮮やかによみがえる記憶の種を愛と呼びたい

 

 

☆参照: http://newmoon555.jugem.jp/?eid=467

 

 

note.mu