水の領域

瑞木理央(みずき・りお)の短歌と詩

【連作短歌】踏まれた薔薇

 

殺意閃くさくらばな殺す側にわたしはきっとなれないでしょう

     *

 

心臓が裂かれる音をきいていた箱庭の薔薇踏みしだかれて

 

花には花の痛みがあってこの夜も誰かが水の包帯を巻く

 

花の文字、薔薇の言葉を解さないヒトらの靴の裏で花片は

 

どの薔薇も怯えたように目を伏せて内なる空を吸い込んでいる

 

怒りには土を かなしみには海を 溶けない痛みには月の瞳(め)を

 

知りすぎたたましいはもうぼろぼろで焼けたベンチに凭れて祈る

 

薔薇を踏むヒトのこころは歌えない踏まれた痛みしかうたえない

 

ときいろの風の合図でよみがえる夜の薔薇園ひそやかに咲け

 

歌ひとつ忘れるたびに空ひとつ解き放たれて羽根がはしゃぐよ

 

太陽と水さえあればそれでいい ひかりを食べてぼくらは戦ぐ

 

     *

 

いまはもう響いてこないメロディの残像として窓のあわ雪

 

 

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