水の領域

瑞木理央(みずき・りお)の短歌と詩

2016年前半の短歌

 Twitterとは。

挨拶も交わさず星を贈り合うのが今日のコミュニケーション

 

つぶやきが君のアンテナ掠ったら黙って星を光らせなさい

 

ソーシャルな愛を安売りしたくないぼくらに星を返してほしい

 

液晶の窓に浮かんだ文字だけの弱い絆がぼくらのすべて

 

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 飲み会ぼっち。

饒舌な酔いどれ人に囲まれてぬるむ刺身を噛み締めた夜

 

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 地球照の夜。

三日月の欠けた部分を照らしてる地球の光のぼくらは一部

 

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目が覚めた後に出かけるあてもなく ぼくの前には空だけがある

 

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 化学室観察日誌普遍的絶望生成過程報告

たましいがしずかに凍りついたあとゆるりと融けて絶望となる

 

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 観察され短歌。

この夏はあの子の庭の朝顔になって観察されていました

 

ぼくよりもきみの方こそアルマジロ珍獣決定戦で勝負だ

 

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 夢三首。

夏の夜の夢と夢とが混線し溶けあって壮大な宇宙史に

 

受信する夢と夢とのあわいには地球のための小さな祈りを

 

夢を見ている夢をみている夢を見ている夢をみている私

 

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帰るべき巣をつくれない僕たちに夜のひかりはいつもやさしい

 

ミネルヴァの梟は飛ぶ息絶えた坑道のカナリアの墓標へ

 

この森にさざめく声をかき寄せて祈りにかえる八月の魔女

 

楽園を追われたけれど知恵の実を齧ったことは悔いたりしない

 

ケルトン自動車走る透明な生き物が棲む島をめざして

 

蒼天を駆ける空色飛行機は世界を青に導くだろう

 

メロディになりそこなった雨音を拾いあつめて降るラグタイム

 

悪役になりきれなくてきらきらと緋色の羽根を振り撒くぼくら

 

(走れない)地球の重力1Gが1.5Gになる月曜日

 

ト短調の吐息と寝息だけ乗せて終バスはゆく夜の向こうへ

 

ピアニシモの吐息でしゃぼん玉を吹くようにやさしい沈黙(しじま)がめぐる

 

帽子から次々跳び出す鳩や花、リボンのように語りあいたい

 

お喋りな君の指から蝶々が舞い降りてきてこの指とまれ

 

歩いても歩いても家に帰れない夢から醒めたあとの秒針

 

人の世の蜜に焦がれた咎ゆえにこの地に生きるわれら流刑囚

 

空想の裡(うち)に重ねた罪を知りつつ裁かない天日(てんじつ)の眼は

 

バーゲンセールにされた世界を生きている魂さえも稀釈しながら

 

倫理学教師が夜ごと訪れて花を散らしてゆく裏通り

 

降りそそぐ龍の涙を掌(て)に受けて沁みゆく爬虫類のにおいに

 

火星発アラームも犬の呼び声も巻き込んで夏蟲交響曲(なつむしシンフォニー)

 

アンドロイドの踊り子たちは偽りの楽土の夢を舞いながら散る

 

蟲や樹の御魂がヒトに輪廻する秘史を忘れて虐殺の庭

 

冥闇(くらやみ)の淵に彫られた傷痕が花になる日を待ち焦がれてる

 

木洩れ陽も猫もわたしも生塵もすべて一つになるeuphoria

 

 

☆参照: http://newmoon555.jugem.jp/?eid=514

 

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