水の領域

瑞木理央(みずき・りお)の短歌と詩

【短歌】二重春時間

 

透明な糸をつたって曲技団(サーカス)の夜から夜へとわたる白蜘蛛

 

風を呼ぶ桜の声は重低音バッドニュースは遅れて届く

 

早春の傷癒えぬまま息を継ぐタンポポの孤独デイジーの罠

 

淡色のかなしみ手ざわりもあわく夕光(ゆうかげ)に溶けのこるシロフォン

 

いっせいに菜の花たちの深呼吸だいじょうぶここで生きてゆけるよ

 

図鑑にはない花の名を知りたくて風に尋ねるように春雷

 

細胞がふるふるふるえるやさしさできみの路地へと風を届ける

 

まなうらに春の面影はてしなく梢にしがみつく桜蘂

 

単調な空にちょっぴり飽きたからマーマレードの雨を降らせて

 

雑草が自由気ままに呼吸する一坪の庭。きみの草原

 

春時間終えてアスファルトを飾る花躑躅 だれにも踏ませない

  

 

 

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