【連作短歌】蟹と闘う
繰り延べた死を思い出す前夜祭 診察券は財布に入れる
いつもとは違う路線の地下鉄に乗る乗り換えるここが戦場
本日の受付番号、平安京遷都と1番違いで惜しい
フルネーム何度も問われ何度でも答える喉がやや縺れつつ
皮膚を破り侵入者として血液を奪う針から目を逸らしてる
やわらかなからだに傷をもつ人が固まりながら待つ白い部屋
ペパーミントグリーンの声で話す医師はわたしの不安を食いとめる役
「問題はないです」なんて異常値の腫瘍マーカー見せて主治医は
注射器が小さな戦士を送り込む 蟹に侵され傷んだ骨に
病院の午後のひかりは淡くなるゆるやかになる 少しだけ眠い
◎初出: http://newmoon555.jugem.jp/?eid=522