水の領域

瑞木理央(みずき・りお)の短歌と詩

【短歌】recurrence of cancer 2016

 

死神の消息を聞くたびにこの世界は色を鮮やかにする

 

   *     *     *

 

死神がご機嫌いかがと軽やかに尋ねてわらう初夏真昼(はつなつまひる

 

他界からの風の便りになつかしい空のにおいがよみがえる午後

 

生まれくる前の場所へと還る旅 ひと息ごとに花が零れる

 

去り逝くと知ればすべてがいとおしい 傷痕さえも煌き果てる

 

重すぎる荷物をひとつ捨てたあとの空漠をただ抱きしめている

 

   *     *     *

 

脊椎がここにいるよと自己主張するように痛む長い長い夜

 

体芯を貫く光の道をもつ脊椎動物なんだ私は

 

走れないからだを生きて黄昏に追い越されたら火星になろう

 

   *     *     *

 

私から光も風も過ぎ去ってdepressionが支配する夏

 

致死量の悪意を解毒しきれずに悲鳴をあげた肝臓異変

 

ひんやりと白い機械のトンネルを出るたびに流れる時の砂

 

亡骸となりゆく日々を直射する生の証としての痛みは

 

ロキソニンだけでは消えない痛みのみ生の証として認めます

 

長生きも早死にするも親不孝だから間をとって早生き

 

通行人Aを襲った悲劇より静穏な死を迎える準備

 

一歩ごと見えないドアに開かれる終りへの道果てしなくひとり

 

いつか君も齢(とし)を重ねてたどり着く道にしおりを残していくね。

 

   *     *     *

 

ありふれた病でたぶん逝くからだにはありふれた午後の紅茶

 

   *     *     *

 

幾千の叶わなかった夢の実がさざめきながら僕に降る夜

 

   *     *     *

 

ほら、悪性新生物と呼べば癌もやんちゃな未知の小動物だ

 

転移した癌をチャルルと名づけたら一緒に生きていける気がした

 

 

☆参照: http://newmoon555.jugem.jp/?eid=516

再発した癌とともに生きてます。

 

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