短歌
生き終えた樹木が朽ちてゆくようにわたしの湖(うみ)も乾きはじめる なつかしい匂いの部屋に包まれて時計の音に別れを告げて にんげんのかたちを解いて生命のはじまりの夜を迎えにいこう ひび割れた記憶の束はぜんぶぜんぶベッドの上に置いて、わたしは ひ…
目を閉じて息を澄ましてこの夜と一つになってゆく闇の肌 メランコリアの月はお菓子を食べ過ぎてほろんほろんと降る粉砂糖 魔女の肌色の今夜の月だからケチャップまみれにするオムライス 銀の屑しゅらしゅら砕け降る夜の銀の欠片でみずうみを買う 木枯らしが…
青痣が消えない点滴針の痕 終末前夜をどこまでも行く 血のにじむ絆創膏を剥がすとき無音の白い空間が来る 肝臓に棲む黒蟹の消息をきくたびに潮騒がうまれる 遺伝子の捩(よじ)れた蟹にぴったりと寄り添うような波をください 両肺に水玉模様の火を宿し浅瀬で…
紫陽花の珠がほどけてきらきらの蕊が地球を芯から照らす 鶯がまた口ずさむ六月のアリアに森の声が重なる 龍の庭にプラスチックの遺物あり ヒトは何処でもピクニックする QRコードが埋め込まれた青葉たまに雀も読み込んでゆく ウイルスの生きのびかたを称え…
題詠〈雛〉この世へと生(あ)れ来る前の雛の棲む卵の中のちいさな宇宙 転生を繰りかえすたび草臥れてゆくたましいを滌(すす)いで翠雨 こころの生ぶ毛をそっとなぞって火のようなあなたの深みに触れる 言葉で note.com
むらさきの屍体散らばるように花あえなく果てて桐の樹の夏 note.com
千の眼を瞠(みひら)くように羽ひろげ異界の春を告げる孔雀よ 艶やかな求愛なんぞ目もくれず姉妹孔雀の午後の長閑(のど)けさ note.com
目が合った瞬間(とき)をぼくらは忘れてる波打ち際で鳴るファンファーレ 誤字すらも可愛い君のmailから感染したい どうせ飛ぶなら ぼくたちの痛さ苦さも溶けてゆき溢れて海は永遠になる 吊り橋の上でぼくらは遥かなる波に呑まれぬように離れた 百億年のちの…
言の葉の渦巻く海よ水中で目には見えない戦争がある 奪うより与えることを選んだら今しも骨になりそうな月 バーチャル鬼ごっこの鬼たちは月の裏で朽ち葉をかぞえていたが 欲望がせめぎあう夜この惑星(ほし)の芯をふるわすほどの痛みを 水晶を愛したことは…
透明な種として過ごしたい街で個体識別されて冬空 高層ビルの窓に映った青空と雲と高層ビルがまぶしい シースルーエレベーターに運ばれてこのまま一人で昇天したい あすの朝ゴジラに変身していたら私がビルを踏みつぶす番 二〇〇メートル下りれば歩道を人類…
(怒ってる)郵便ポストの顔色がシグナルレッドに変化した朝 エンジンの音が私を責めているようで歩道をあるけなかった 昨日までなかったはずの歩道橋、建設過程を誰も見ていない 深海魚から受け継いだ遺伝子が私の意図を支配している * * * サイレンが近…
パペットの糸切れたあとその瞳(め)にはひかりが宿る やがて開幕 観客がわたし独りの劇場に轟きわたるオラクルの蒼 道化師がバビブベぼくの鼻先で告げる世界をはみだす呪文 真実は劇薬だからすこしだけ朝のスープにそそいであげる 錆びついたメロディーより…
鮮血がほとばしる日を(おだいじに)鉄の錠剤しろく煌めく 赤血球白血球をかぞえたら私の肺に吹くあかい風 いつもより賑やかに鳴る鼓笛隊むねに抱えてのぼる階段 血を流しまた血を流し残された血が体内をまためぐりゆく 子宮から剥がれ落ちた血は裏側でいつ…
龍の庭、その結界に触れるときかつてわたしも森だったこと あと一歩踏み出せばほら、ここからは水の領域 うたがうまれる たましいに鳥の刺青いつだって翔べる準備はできていたんだ 水が空を恋うように気がつけばまた ぼくらはとおく月をみていた 川面には光…
「生まれてこなければよかった」と叫ぶすべての魂に、この連作を捧げます。 新月の闇から闇へ谺(こだま)する無邪気な夢魔の宣戦布告 まなうらの水晶宮の奥深く誰もが孤独な王となる夜 眠ってる星の記憶を辿りつつわたしを使役する電子音 星と星ゆき逢う宙…
森をゆく 梢を鳴らす風音に耳をふさいでずんずん歩く 樹がとぎれ空がひらけてその下に団地の群れがぎゅうぎゅう光る * * * 雨。 雨粒がやけに大きい夕立に打たれて走るでもなく濡れる 青空が見えているのに強くなる雨のあしおとまた遠くなる 濡れた服はす…
花時計の針は時間を止めたまま降りゆく水の季節を眠る 生きて今が在るということ公園の青い楓の葉が揺れること 点滴の針の痕からアンタレス、赤き光を鏤めてゆけ 空白の日を白いまま過ごしてる光 はためく雲ばかり見て 八万六千四百秒の一日を生き終えてまた…
教室にぽつりぽつりとせんせいのモノローグ降る午睡の時間 おとなしい生徒ばかりのがっこうは教師のための優しい温室 note.com
太陽の汁が滴るマンゴーの果肉に花のような歯形を クリームの白を掬えばスプーンが踊りはじめるきらきらワルツ シャーベットしゃりしゃり恋に墜ちるときこめかみを突くちいさな芽吹き 蜜色のゼリーそれよりクリームの泡にまみれて溺れたいのに ひとくちが遠…
目蓋との境に闇が満ちるときからだは粒子となって散らばる イヤホンをしたまま夢に降り立って、エイトビートで駈ける草原 曲調が緩やかになる風音とやさしく睦みあう夜想曲(ノクターン) 近づくと幽かに土をふるわせてジムノペディが湧き出る泉 チャンネル…
こころにもない音ばかり瞬いて今夜しずかに言葉を殺す 腐敗した肉の獣に正装を着せてきらきらさざめく思考 諦めたあとの優しい沈黙が未明の白を閉ざしつづける 生きている人をどこまで愛せるか問うように日は朝をはじめる 血みどろの語彙をあつめて血まみれ…
透明な糸をつたって曲技団(サーカス)の夜から夜へとわたる白蜘蛛 風を呼ぶ桜の声は重低音バッドニュースは遅れて届く 早春の傷癒えぬまま息を継ぐタンポポの孤独デイジーの罠 淡色のかなしみ手ざわりもあわく夕光(ゆうかげ)に溶けのこるシロフォン いっ…
ゆびさきで触れた位置からじりじりと歪みはじめる世界の喘ぎ 奇跡から放り出されて着地した砂浜のすな すこしつめたい どんな夢も打ち切りにあうそのときのために集めた銀貨をつかう この惑星(ほし)の軌道がゆらりずれてゆく出逢い損ねた二人のために たま…
穢された月の記憶がよぎる空、あなたの嘘を曝くさきぶれ 語れない罪を負うひと月の夜はつきのひかりにさえ怯えつつ なまぬるい外気に触れて ささくれた言葉にバンドエイドを巻いて ただひとりの闘いひとつ終えるたび拡がってゆくかなしみの染み 弱くあること…
好きだった歌のたそがれ音符ごと黒板消しで消したい夏だ 敵意よりやさしく嫉妬よりぬるいトマトはすこし熟れすぎている 駆けのぼるほど腐ってゆく人間もかつて信じた夢の果実も 売文屋、かなりや殺しの罪隠し吹けば飛ぶよな言の葉の檻 生き延びろ。闇に愛さ…
甘やかなサイバーテロの標的になったVOCALOID(ボカロ)を巡る文字列 私の内部のある種の回路がすり減ってゆく剥き出しの視線の下で 「悪の側(がわ)に立つ」ときこえた電磁波にまぎれて声はすこし掠れて 天上の窓から文字が降りそそぎ それがぼく…
液晶の窓をひらいてこの国にひしめく鳥の囀りをきく 現実(リアル)では出逢えなかった君や君と不意につながる文字列(テクスト)の波 暗号を解く鍵もまた暗号で送るしかなくて捩(もじ)れる文字が チューナーを君の周波に合わせたら ぼくはいま変声期のV…
いつの間にやらつぶれた店の跡地にはどこもかしこもセブンイレブン この国の時間を赤く塗りつぶす工場としてコンビニは建つ コンビニの本体よりも駐車場がだだっぴろくて暮れる郊外 クレジットカードを持たぬ大都市の貧者のためにFamiポートあり レジの…
※チョコレートを愛するすべての女性に贈ります。 ショコラトリーひしめく二月の博覧会 人、人、人の瞳(め)は弾んでる 折れそうな自分のためにチョコを買うおんなのひとはみんなかわいい いきたくてたどりつけない迷宮の壁の向こうのラ・メゾン・デュ・ショ…
労働と称するしずかな戦争に破れて散ったあの子も私も 息をするだけでお金が減っていく家賃年金健康保険 病院で支払う医療費分さえも稼ぐ力がなくて死にたい 生命力ゼロの私が働けば経済効果はさらにマイナス 社会とは働く人のものである——私に社会は存在し…