【連作短歌】言葉を殺す
こころにもない音ばかり瞬いて今夜しずかに言葉を殺す
腐敗した肉の獣に正装を着せてきらきらさざめく思考
諦めたあとの優しい沈黙が未明の白を閉ざしつづける
生きている人をどこまで愛せるか問うように日は朝をはじめる
血みどろの語彙をあつめて血まみれの隻語をつづる炎天の乱
飛語による陵辱、雅語による差別 昏れゆく国を生きるわれらに
枯れてゆく言葉を誰に手向けよう みどりのゆびをもつきみの手へ
【連作短歌】神の箱庭
好きだった歌のたそがれ音符ごと黒板消しで消したい夏だ
敵意よりやさしく嫉妬よりぬるいトマトはすこし熟れすぎている
駆けのぼるほど腐ってゆく人間もかつて信じた夢の果実も
売文屋、かなりや殺しの罪隠し吹けば飛ぶよな言の葉の檻
生き延びろ。闇に愛された徴(しるし)は前髪で匿して駆け抜けろ
誰もみな目を合わさずにビー玉を弾いて跳ばす神の箱庭
なまなまと爪痕いまも癒えぬまま黒塗りにされてゆく文字列(テクスト)
水没の刹那ひそかに愛された記憶を抱いて眠れ、鉄塔